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Cymruのお喋り

Cymruのお喋り

RS異聞記2 1

フランデル大陸の極東地域で、長い歴史を誇り、
強大な影響力を持っていたゴドム共和国に、
後に「赤き空の日」と呼ばれる日に関する、次のような史料が残されている。

「およそ五百年余りの昔たるブルン暦4423年6月。
俄かに空が黒く成りて3日間彼の状態が続け。
続いて十日間明るくて赤き光空を被いし。
彼の挙句、赤き光一つの点に成りて南の土地に落ちれり」


ふうの運命が大きく動いたのがこの「赤き空の日」であった。

この邸の主になることで覚醒した彼女の能力は、
過去を鮮明に想起することを可能にした。


あの日・・・

あの事件の攻防戦の際に放出された強大なエネルギーは
ふうの先代にあたるブロヌの調和力を超えて暴走し、
時空を歪ませ、空間に不安定なポータルの因子を形成してしまっていた。

いつ、どこに現れるかが予測不可能な無数のポータルは
ふうの調和力をもってしても、手に負えない地雷のようなものであった。

そう・・・そのポータルはいつも突然現れる。

たとえば、
イスティス=カイサーが風圧でステンドグラスを吹っ飛ばした時、
小さなポタが開き、カムロをこの世界に呼び寄せたように・・・

ポタが呼び寄せるもの、また他の世界に飛ばすものは
実体だけではない。

強い想いはときに実体と乖離し、ポタを通過してゆく。

この世界で「RED STONE」探索を使命としていた意識が、
「RED STONE」とは無関係の世界で、
”赤い石”を、手当たりしだい追い求め彷徨う怪物となり、
その世界の物語に不気味な姿と被害を伝えられるものとなることがあった。

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ある世界に、そんな怪物伝説を持つ国がある。

その大陸にある国々の中でも武力でその名が轟くダグザ国。

やせた土地しか持たぬ辺境の小国であるが、
大陸諸国のほぼ総ての傭兵隊隊長は、
この国が輩出しているという事実で、
この大陸での確固たる地位を得たことがこの国の民の誇り。

そんな、武力こそ総てという価値観のこの国に、
魔法力の重要性を認めさせた王の伝承が残る。

この国の歴史に「日輪王」と讃えられる偉大な王と、
彼に仕える麗しき魔法使いの物語は、
この世界の吟遊詩人たちにより大陸中に広まっていった。


吟遊詩人たちは詠う。


「城壁の中は靄に覆われ、中の者、指一本動かすこと叶わず。
いずこの世界より現れたのか、あまたの魑魅魍魎跋扈し、
武勇の誉れ高きものたち、なすすべもなく葬り去られる。

化け物たちは「紅き石」欲し、城内を彷徨う。
”王の間””宝物庫””王族たちの部屋”
石はあらず。

城の上空に
城内を跋扈する怪物たちより更に怖ろしき紫の多肢生物あり。
石を探すことのみ欲するその姿は、
空の星々の輝きを月の煌きを奪いて
怖ろしき瘴気発せり。

”探せ、探せ、探せ、さ・・・が・・・ぁ・・・あ・・・せ・・・ぃ”

石を護りしは若き魔法使い。己の力まだ知らず、ただただ、逃げ惑う。

若き魔法使いに危機迫り、その命尽きんとするその時----

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「交配は成功か・・・」
かがんで植物の生育を確かめていたミルティクは、
満足げに微笑むと、手にしていた分厚いノートに何やら書き込んだ。

代々この国の参謀役を担ってきた名門ルティス家。
文武両道の名を欲しいままにしてきた
この家の長男であるミルティクは、
王立学術院生である証、ビロードのガウンを優雅に翻し、
己が生まれた邸を遠くに眺めた。

明日は一つ下の弟の誕生日。
本来17歳まで通う士官学校をわずか15歳で卒業、
来月から王宮付の近衛隊に配属が決まっている弟は、一族の誇り。

邸はさぞかし華やかに賑わうのであろう。

ミルティクは士官学校を1年で退学した。

レイピアを持たせたら彼の右に出るものはいないのだが、
厳しい訓練に耐えられぬ虚弱な体質のミルティクは、
この国では評価の対象にはならない。

士官学校退学後ミルティクは、
この国ではマイナーな薬学と魔術を学んだ。

といっても、3年学ぶともう、彼に何かを教えてくれる者はいなかった。
王立図書館に籠もり、多いとはいえぬ文献を調べ、
独学でさまざまなこと学ぶ日々。

長い間放置に近かった王立薬草園で研究に没頭することが、
彼には楽しかった。

「どなたですか?!」

丹精こめて育てているビワの木の1本から、
何かがどさりと落ちてきた。

「いてっ」ちょっと顔をしかめたが、俊敏な動きで立ち上がると
落ちてきた少年は、驚いたような表情でミルティクを見つめた。

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こんな風にじろじろ見られることには慣れていた。

少年はといえば、年のころは14,5歳。
黄金色に焼けた肌、アメジストのような紫の瞳、
軽くウェーブがかかったような栗色の髪をし、
腰には見事な細工が施された剣を下げている。

2メートルを越す木から落ちてきたときの身のこなしは、
若豹を思わせるしなやかと
鍛えあげられていなければ到底出来ぬ華麗さを伴った動き。

やがては、この国の民にとって理想的な戦士または剣士に育つことだろう。

一方のミルティクは、
シルバーの髪、プラチナのように輝く瞳をした透き通るように白い少年。
長い手足、ひょろひょろと伸びた体は目の前の少年より頭1つ大きい。

「お前、女か?」少年はおそるおそるミルティクに近づいてきた。

「いえ」年下の少年のぞんざいな口調に気を悪くした風もなく、ミルティクは微笑んだ。

少年はミルティクの正面に立つと背伸びをして彼をじっと見つめた。
「お前、名前は?」

「ミルティク=ルティスと申します」目の前の少年が誰であるのかをミルティクは知っていた。
というより、この国で彼を知らない者はいないであろう彼こそは、第一王位継承者アウィン。

王立薬草園は城壁の中にあったので、彼がここに現れても不思議ではなかった。

「ミルでよいか?」

「御意、アウィン様」

膝まづき主君に対する正式な礼をしようとしたミルに、自分もしゃがんでその手をとるアウィン。

「アウィン様?!」

「ミルは家臣ではない。友達だ」少年は満面の笑みを浮かべていた。
「ミルはいままで私が見た中で一番美しい。男だけでなく女でもミルほど美しい者は見たことがない。家臣にするには勿体無い」

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そう、この国に生まれなければ・・・

頭脳明晰にして気品のある容姿。
戦士や剣士には向かぬ虚弱体質であることを差し引いても、
彼は間違いなく賞賛されるべき存在であった。

が、この国ではそれは何の意味も無い。

「過分なお言葉いたみいります、アウィン様」
丁寧に頭を下げたミルティクはアウィンの腕にかすり傷を見つけた。
「これは大変。失礼いたします」

祈りの詠唱「我に治癒の力与えたまえ」
ミルティクの掌から光が溢れ、アウィンを包む。

傷が消えた。

「凄い・・・ミル、君って本当に素敵だ!」
アウィンはミルティクに飛びつくとその頬に口づけた。
「これ、お礼にあげる」
ゴソゴソとポケットを漁り、取り出したのは赤黒い石。
「城の宝物庫で見つけたんだ。
見つけた時は真っ赤に光って綺麗だったんだけど・・・外で見るとそうでもないや」

「アウィン様~~~どちらでございますかぁ~~~」
たくさんの人の気配が近づいてきていた。

「そんな大切なもの、いただけませ・・・あっ・・・」

お付の者たちが彼を探す声が耳に入るや否や、脱兎のごとく駆け出すアウィン。
そのスピードたるや・・・ただですら体の弱いミルティクにあとを追うことは不可能であった。

手の中に残った赤黒い石をガウンのポケットにしまい、
ミルティクはビワの木に向かい何やら詠唱する。

彼の目の前には丁度食べごろの実が、どこからか現れた皿に綺麗にもられ浮かんでいた。

それを両手で掴み引き寄せる。

「そこの者、王子を知らぬか?」

ミルティクは片膝をついて顔を伏せながら「あちらに向かわれました」と答え、その皿を差し出す。
「王子様がご所望でございましたので、お取次ぎを願います」

問いかけた兵士が後ろに控えていた者に合図し、進み出た兵士が、皿を引き取った。

「邪魔をした」目を背けながら通り過ぎる兵士たち。

「いつ見ても気味が悪い奴だな・・・」聞こえよがしに言われることは慣れっこ。

だが・・・

頬が熱かった。

軍人の家系に生まれた見るからに虚弱な長子。
使用人にすら半ば無視されて成長してきたミルティクに、
あんな風に抱擁されキスをされた記憶はない。

純粋に畏敬の念すら伝えてきた澄んだ瞳の少年。

あの日、ミルティクは己が仕える価値のある主君を見つけた。

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自分の選択が間違っていなかったことは確信しているのだが・・・

アリアンの酒場で安酒をあおって沈没してしまったアウィンに、
無言詠唱でヘイストの応用をかけると、ミルティクは彼をおぶって立ち上がった。

「いつも大変だねミルさん」
扉を開けて見送ってくれたマスターに妖艶に微笑み、会釈すると外に出る。
自分にも無言詠唱でヘイストの応用。

自分よりはるかに重いアウィンもこうすれば楽に運ぶことが出来る。

その日暮らしの傭兵が多いこの街の木賃宿に戻り、
主がゆっくり眠れるように上着を脱がし、汗を拭ってやってから
ベットに運ぶ。

鍛え抜かれた上半身の左上腕部に残る傷跡。

効かぬとわかっていてもその傷に回復魔法をかけてから
そっと布団をかぶせた。

丁寧に一礼してその場を離れると
ミルティクは、それまで着ていたロングコートを脱ぎ、
全身を黒いローブで包みフードをおろした。

「いってまいります、アウィン様」

部屋と出入口に結界をはり、何かあればすぐわかるようにすると
ミルティクは場所記憶で古都に向かった。


古都のはずれの一角。

気味が悪いほどよく中ると評判の、美貌の占い師の小屋の前には、
すでに長蛇の列が出来ていた。

「ミル様、遅いですぅ」

「申し訳ありません。アウィン様が酔いつぶれてしまって・・・」

「はいはいはいはい、言い訳はいいからすぐにお仕事おねでぇす(はあと)」

ミルティクには生まれつき、目の前の人間の近未来が見えた。

ものごころついた時からそうだったので、
他の人にそれが見えないことのほうが不思議だった。

幼い頃はそれでよく失敗をした。

家にとってはお荷物な虚弱体質な上、
妙に予言めいたことを口走る少年など、
質実剛健、現実主義の人々には気味が悪いだけであったから。

が、
ここフランデル大陸の古都では、それは金になった。

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フランデル大陸には冒険者を束ねる公社という組織があり、
地道に功績を積んでいけば”二つ名”がつき
はじめてまっとうな存在として認められると聞く。

逆に言えば、いくら腕に覚えのあるアウィンでも、
所詮新参者の若造に、ろくな仕事はまわってこない。

”これじゃぁ、ミルのヒモじゃないか!”

フランデルに来た頃は、”こんな代物はノドを通らんぞ”
と顔をしかめていた安い酒を、1瓶飲み干す順応力を見せながら、
酔ってはくだを巻く主君を、どうすることも出来ない己の非力さが悲しい。

今は少しでも稼いで、安宿を出て、どこかに家を借りたい。
それがミルティクの望み。

「で、その石を手に入れることが私の望みなのだ」

目の前に座っているのは恰幅のよい中年の男性。
一般の人々が外で並んでいるのに、この男は到着するとすぐ、
裏から案内されてここに座った。

「眉唾ものの占いでも、聞かぬよりはましだろう」

横柄な態度の男に、あくまで笑顔で接しながら
ミルティクはテーブルの上に並んだ様々な色と形の小瓶のひとつを
優雅な手つきで引き寄せ、蓋を開けた。

最もこれは演出。中身はただのハーブであるが・・・

王立図書館に籠もり、独学で修得したものの中に占星術と催眠術があった。
ミルが生来もつ近未来を見る力に占星術と催眠術を駆使すれば、
占いをはずす方が難しい。

まずは軽く催眠状態にして、男自身のことを聞き出す。

”国会議員か・・・
金にものを言わせて待ち時間なしで占わせようという、よくいる輩だな”

「石について話しなさい」男の額に人差し指をあてて聞く。

「わからない・・・が、その石があれば、どんな願いも叶うと聞く。
レッドストーンと呼ばれる石だ」

感情の無い声がたんたんと告げる。

「レッドストーン・・・」ミルティクは何気なく復唱し、慌てて印を結んだ。

が、ときすでに遅し。
いくつかの思念が物凄いスピードで集まり、あたりを窺った。

”この大陸では、その石は、とんでもない意味を持つようだ”

何かを探し続けるいくつもの思念を丁寧に散らし、
己の周りに幾重にも結界を張り巡らせると
ミルティクは男に向き直り、パチンと指を鳴らす。

「残念ですが、お探し物はすぐには見つからないと思われます。
でも、それに辿り着く手がかりは、大陸中に転がっていますね。
古都周辺だけでなく辺境の村や町でも情報を集められるのが得策かと・・・」

男は不満そうに鼻をならしたが、ミルティクがとびきりの笑顔でじっと見つめると
「ま、わかっていたことだ」と呟き、立ち上がった。

「あなた様に幸運が訪れますように」
自分もすっと立ち上がり、男の手をとると自分の額に当て祈りを捧げる。

明らかに嬉しそうな様子を見せた男は、ぽんと100万ゴールドを支払い出て行った。

「毎度ありがとうございます。またのお越しを心よりお待ちしております」
ミルティクは深々と頭を下げた。

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「お疲れさまでしたぁ~」

ようやく人がとぎれた小屋の中でミルティクは大きく伸びをし、立ち上がった。

「今日も一番人気でしたねぇ~。さっすがぁミルたまぁ~~~(はあと)」

「お疲れさま。ねぇ、クラレ、レッドストーンって知ってるかい?」

受け取った場所代を数えていたクラレの手が止まる。
「ろくな噂は聞きませんよ・・・」
いつもとは違った口調でそう呟くと、クラレは作業に戻る。

「そうか・・・つまらないことを聞いたね。それじゃあ私はこれで」

「あの石に関わるとろくなことがないそうですよ」
小屋を出ようとしたミルティクにクラレ早口でまくしたてた。

「ありがとう、クラレ。よく覚えておくよ」


宿に戻り、結界に異常がなかったかを丁寧に調べ部屋に入る。

ぐっすり眠っているアウィンに
心の中で”ただいま戻りました”と挨拶すると、
自分も隣のベッドにもぐりこむ。

体は疲れているのだか、妙に頭が冴えていた。
お守りがわりに首にかけている、
はじめてアウィンと出会った時にもらった赤黒い石を握ってみる。

「なんだか胸騒ぎがする・・・・」そのまま口にするには危険すぎる、
”どんな願いも叶う”という石のことが気になっていた。

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祈りの間にはふう1人。

中央に描かれた魔法陣からシャボン玉のように浮き上がる水晶球を
時に眺め、時に手に取り、本来あるべき場所に置き直してゆく。

ダメルで起きた異変により時空に生じた歪みは思いのほか大きく
調和を司る彼女はそちらの修復に力を注ぐことを強いられていた。

その間にも、次々に届けられる「RED STONE」を探す者たちの情報。
ガディからは開くことが可能なタウンポータルの数が増えているという報告が届いていた。

あの異変はただの始まりでしかない。

”これは・・・”ふうの目が、浮き上がってきた水晶球のひとつに釘付けになった。

”強すぎる輝きじゃのう・・・この世界に留まらせるのは危険じゃ・・・”
ふうは大きく溜息をついた。

過日発生した時空の歪みは、この光源体を、被光源体を伴わせ、
時間をねじ曲げ、この時代に呼び寄せてしまっていた。

”300年は、ずれておるな”
そのまま彼らの世界に戻すこと叶わぬ・・・

”大儀よのう・・・”
ぼやいても仕方がないとわかっていた。

「古よりの盟約にのっとり、我は願う、この地に調和をもたらせたまえ」
目の前の水晶球は魔方陣の中央に現れた円柱に吸い込まれた。

”時がまいりましたら必ず御国にお返しいたします。それまでご辛抱下さい”
ふうは両手を合わせ深々と一礼した。

世界の調和を保つためには、抜きん出た者の力をこんな風に、
ふうの一存で封印しなければならないことがある。

それも彼女の役目。

わかっていても、やりきれない。

こんな時は・・・

「誰かおるか?」

すぐに侍女頭が現れる。

「お茶の支度をしてたもれ♪」

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いつもの部屋でティーカップを手にしたふうの顔が曇った。

「どうかなさいましたか・・・?」給仕係がおそるおそる尋ねる。

「なんじゃ、これは!」ふうはカップを下ろす。

この時期の楽しみ、
F.T.G.F.O.P. (フィナー・ティピー・ゴールデン・フラワリー・オレンジ・ペコー) の紅茶

のはずであったが・・・

「これのどこにゴールデンティップスが含まれておると申すのじゃ!
わらわの舌を試すつもりかえ?!」


ちまたを賑わしていたのは「RED STONE」の噂だけではなかった。

誰もが知っている老舗の食品会社から相次いで発覚したのは食品の偽装。

賞味期限を誤魔化すのはまだましなほう、ふうが気づいたように、材料の質を落として元の値段でさばくようなことがまかり通っていた。

シーフギルドからの上納金が商人ギルドからのそれを上回った。

それがすべての発端であった。

今までは二つ返事で商人ギルドに有利な計らいをしてくれた国会議員たちが、掌をかえしたような態度をとり始めていた。

それもこれも、少し前ならば誰も近寄れなかったような危険な場所で狩りをする冒険者が増え、シーフにしか見えぬ宝をちゃっかりいただく機会が増えたため。

このままでは、今まで積み上げてきた利権をシーフギルドに奪われる。

そんな危機感が一連の偽装の原因のひとつであった。

勢いづいたシーフギルドは、これに乗じて商人ギルドの信用を失墜させようとしていた。

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目の前に座っているのは、自称商人という依頼人。

が、普通の人間には感じられぬはずの依頼人席の結界に思わず顔をしかめたあたり、ただの商人ではあるまい。

「うちの取引先の店からクレームが来ましてね・・・
納めた品物の中に粗悪品があるというんで
そんなことはないはずだと見に行きましたら、
変な動物が品物を選り分けていやがるんですよ。
そいつが投げ捨てたのが、このもろこしでして・・・」

市場中をまわって、品物を選り分けていたその変な動物が、
今どこにいるか探して欲しいという。

「それではお探しのものを、なるべく詳しく頭の中に思い浮かべていただけますか?」

目の前の男が目を閉じると、ミルティクは印を結んで男の額に触れた。

流れてきた映像は、
恐ろしいほどの生命力に溢れた何やら赤い動物。
更にこの男が持ち込んだ、その赤い動物が投げ捨てたという
とうもろこしに触れる。

”何だこれは!?”ミルティクは、とうもろこしを手で払いのけた。

祖国では王立学術院生として王立薬草園を管理していた彼は、
この作物が怪しげな薬物で促成栽培されたものと見破った。

ミルティクは再び印を結ぶと、無言詠唱でかなり強い催眠術を男にかけた。

下手をすれば、催眠状態が解けた後、術の痕跡が残りそうな強さではあったが、かけ損ねてこの男の本当の目的を知ることが出来ないことを危惧した。

「何故、この赤い動物を探す?」

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男が話した内容・・・

最近話題の食品偽装であるが、実のところ、多少材料の質を下げようが、気がつかない消費者が大多数であるというのが、ここまで偽装が拡大した原因であり、
死亡者が出たわけでもないあたりが、騒ぎはするが、いまひとつ厳重に取り締まれないという現状であった。

このまま騒ぎが沈静化するのを待ち、今までどおりボロ儲けしたい。
が、偽装を、触れただけで見分けるような奴にうろうろされたら、収まる騒ぎも収まらなくなる。

男がこの赤い動物のことを上に報告している間に、それは姿を消してしまったのだが、
上層部の連中から、何が何でもそいつを捕獲してくるように厳命され途方にくれている。

”偽装するほうにも、それを見破ろうとするほうにも有益な動物というわけか・・・”

ミルティクはパチンと指を鳴らした。

「お探しの動物はアウグの教会で飼われているようですね」

男が大急ぎで退出するのを丁寧に見送って、ミルティクは苦笑した。
「ただ・・・その教会に押し入るのは無理だと思いますが・・・」

ミルティクの頭に浮かんだのは一見清楚なただの教会。

しかし、そこを守るのは、この世界では支援ビショと呼ばれる者たち。
更に彼女たちを束ねているのは”二つ名”を持つ高位神官。
街中で使える程度の攻撃など彼女たちには通用するわけがない。

”手に入れられればお金にはなりそうですが・・・”

そんなことで手に入れた金を、主が好まぬことをよくわかっていた。

溜息をついてから、ミルティクは次の依頼人を満面の営業用スマイルで迎え入れた。

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一日が終わった。

占いの仕事の代償は体の芯まで疲れ果てる精神疲労。

一刻も早く帰り、眠りにつきたいのだが・・・

出掛けに部屋のドアにかけておいた結界が、
ミルティクが使えるベットがないことを告げていた。

武力を誇る国の王に求められるものは、力だけではない。

国を存続させるために欠かせぬ優秀な子孫を多く残すこと。

王位継承者であるアウィンの女好きを、責めても仕方が無いことくらい
ミルティクにはよくわかっていた。

どこか泊まる所を探すしかない・・・か。
古都は場所柄、宿代も高い。

思案するミルティクの脳裏に浮かんだのは、
昼間来た男の記憶の中ですらあれだけの生命力を放っていた赤い動物。

この大陸に流れ着いてから、どこか悪いところがあるわけではないのに、祖国にいた頃とは比べものにならぬほど、カリスマ・力が落ちている主。

赤い動物の生命力の源がわかれば、主も元の輝きを取り戻すのではないか・・・

ミルティクはテレポーターでアウグに飛んだ。

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”神聖都市の名は、伊達ではないということか・・・”

テレポーターで飛んだ先にいた年配の女性に宿のありかを尋ねると
古都とは違い薄暗い電灯の下で、占い師姿のミルティクは巡礼者に見えたらしく、訂正する暇もなく巡礼宿に連れて行かれた。

祝福されているというパンと薄いスープを振舞われ、
毛布一枚を貸与されて大部屋に通される。

ざっと20人ほどだろうか、無言で横になっている人々間を縫って
1人分のスペースを見つけると、ミルティクも毛布にくるまり、横になった。

すぐに襲ってくる睡魔。ミルティクは目を閉じた。

まどろみの中、何かが聞こえてくる・・・?
ミルティクはふっと目を覚ました。

”・・・か?””・・・の・・・確・・・”

頭に流れ込んできたのはこの世界では”耳”と呼ばれる、本来は特定の相手にしか聞こえぬ心話。

が、ミルティクには己が意思とは無関係に聞こえてしまうのだ。

普段ならこの手の心話は無意識にブロックして、聞かないでいることができるのだが、主が側にいないこと、本来は信仰心篤い善男善女がいるはずの巡礼宿であることで、ミルティクの警戒心が弱まっていたらしく、勝手に流れ込んできてしまったようだ。

聞こえてしまえば、やはり気になる。
眠ったままの振りをして意識を集中する。

”で、教会には神官とシスターしかいない”

”よし、さっさと目的の動物をさらって、こんな辛気臭い街からずらかるぞ!”

”これは、これは・・・あの男、手回しがいいな”
苦笑しつつも好奇心にかられ、
心話していた者たちがそっと宿を抜け出した後を不可視の指輪をつけて追った。


そこでミルティクが見たものは・・・

自分が想像していたよりもはるかに高い防御力をもつ支援ビショたちの能力。
その分攻撃力は皆無らしいが、何をしてもそこにはただ教会が佇んでいるだけに見えた。

攻撃する側は体力も物資も使い果たし、夜明けと共に引き上げるしかなかった。

”チラリと見えた、赤いものが噂の動物だろうか・・・”

相手の「退却!」の号令に、教会側から襲撃者たちに向かい一斉に、
エビ・ブレ・フルヒールがかけられたのは、
『敵は完膚なきまでに叩きのめすもの』という価値観の国に生まれ育ったミルティクには、正に驚きであった。

”ある意味、化け物屋敷かもしれないな・・・あの教会”

主に締め出された悲しみを忘れさせてくれる、なかなかの見物であった。

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「世の中乱れきっております・・・」ふうは霊体となり中空に浮いたまま、嘆いていた。
眼下にはふうの本体が”死んだふり”のまま静かに横たわっている。

彼女が話しかけているのは、その隣に微かに残る先代の思念。
「紅茶をいただくのに本物かどうか疑わなければならないとは、本当に世も末でございます」

”で、ふう。わらわに何の用じゃ?”明らかに閉口気味の思念が流れ込んでくる。

「お久しゅうございます^^」ふうはにっこりと微笑んだ。


”・・・ふむ・・・300年少々の歪みとな・・・それは大儀じゃのぅ・・・
その光源体、力を封じたままこの世界に留め置いてはだめなのかぇ?”

「若き光源体にございます。このまま成長すれば、封印もいつはずれるか知れず・・・
力が解放された際の反動は予測不可能なものとなる恐れがございます。
過去と現在の橋渡しをしてくれる者を使い、
何とか彼らを元の世界に戻すことが急務だと心得ております。
是非先代のお力で過去の者をお借りしたく・・・」

”万が一失敗すると取り返しのつかぬ歪みとなるとも限らんのぅ・・・”

「この任に邪念なくつく者とそれを支える強運の者の心当たりがございます」
ふうはにっこり微笑んだ。

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混沌とした意識の中で、何かが彼を呼んでいることだけは認識していた。

安らかに、本当に安らかにまどろんでいたのに・・・

「るせぇな・・・誰だよ!!!」薄目を開けて見上げた先に立っていたのは
「誰だ、お前???」

ベージュのドレスに身を包んだ年配の女性。

見ず知らずの相手であることは確信できるのだが、
とても残念なことに、こいつに似た奴を2人知っている。

「ほう、お主がマートンかぇ・・・」

「ああ、で、てめえは誰なんだ?」悪い予感がしている。
が、確かめずにはいられない。

「わらわはブロヌ。ふうの使いじゃ♪」にっこりと微笑みながら投げキッスが飛んできた。

「わぁ~~~~」たまらず起き上がり逃げようとするマートンにすかさずラビットラッシュ!
「間違いねぇ、あの婆ぁの仲間だ・・・」マートンは溜息をつき、がっくりとうなだれた。

「こんにちは・・・」ブロヌの後ろから顔を出したのは小さなネクロ。
「あ~ほんとにワンコのお兄ちゃんだ♪」
両手を広げてマートンに駆け寄るとそのまま抱きついた。

「お前、誰だ?!」

「ジェイドです♪」

「・・・???」

「ん、とね。ディオちゃんとカムロと一緒に遊んだの・・・
でね。お兄ちゃんが助けてくれたから、
あたしパパとママに会えたんだよ。ありがとね♪」

「お前・・・あんときのアンデットか?!」

「お兄ちゃんすっごぉ~~く強くてかっこよかったんだよ」
ジェイドは親犬にじゃれる子犬のようにマートンにひっついて離れない。

「感動の再会はそのぐらいでいいじゃろ」

「感動なんぞしとらんわい!」無邪気にからみつくジェイドを、なんとか離れさせ肩で息をする。
「オレは死んだんじゃねぇのかよ!なんでこんな・・・」

「カリカリしても何も良いことはないぇ、ま、これを確認してもらおうかのぅ♪」
ウインクしてマートンに突きつけたのは、生前ふうと交わした借用書。
「残金が2000万少々あるようじゃのぅ」

「ヲイ・・・」(-_-X)
「お前らは悪魔か?!死んでもまだ取り立てる気かい!!!」

「いや、悪魔はこの子じゃ(はあと)ネクロと悪魔の能力を授けてある。
そなたは死んで間もないので、ネクロにすることも叶わんのでな・・・
ジェイドのペットのアンデットになってもらおうかのぅ・・・」

マートンの姿は黒い骸骨となり、腰には3つのサイコロが入った袋が下がっていた。

「そなたたちの任務は歪んでしまった時空を一瞬でよいから元の次元に繋げることじゃ。
段取りはふうがしてくれようぞ。
マートンはそのサイコロを使い、3回だけ、元の姿になることが出来るが、それを使い果たすとまた、ここに戻り眠りにつくこととなろうぞ。
サイコロを振り、出た目×30分が元に戻れる時間じゃ。うまく使うのじゃぞ♪
ジェイドはたくさん遊んできてたもれ^^そなたの真っ白な心は必ず目的に向かうでのぅ」

「はぁ~~い♪ジェイド、いっぱい遊んできまぁ~~~す^^b」

「オレはそんなこと引き受けた覚えはないぞ!!!」
マートンの必死の抗議は軽やかにスルーされた。

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「キイーン キンキン キンキンキーン テケテケ テッテンテン♪」

「ヲイ!」

「ん、なあに、マートンお兄ちゃん?」

楽しそうに両手を広げて走っていたジェイドは、急に止まると振り向いた。

「って、急に止まるなぁ!!!」
思いっきりジェイドとぶつかり、半壊した体を修復しながら、マートンは叫んだ。

「あっ・・・ごめんなさい><」

「ったく、なんてもろい体なんだ!あの婆ぁ、もう少しまともに復活させろってんだ!!!」

「で、なあに、マートンお兄ちゃん?」

「お前、何で変な効果音口走りながら走るんだ?黙って動けないのか!!!」

「う~~~ん・・・よくわかんないけど、走るとお口が動いちゃうの。
お手々もつい横に広がっちゃうし」と広げた腕がマートンを直撃。
折角再生しかけていた腕が落下。

「あぁ~~っ・・・ごめんなさい><」

「わ、わかった、もういい。行こうか・・・」

こんなことになっても元は腕の立つ鍛冶屋だったマートン。
手際よく骨を拾い集めて再生している自分が悲しい。

”オレって本当に運犬なんだろうか・・・(遠い目)”
己が本当に強運の持ち主なのかを真剣に悩み始めたマートンであった。

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ジェイドが遊びにいくように指示されたのは、
フォーリン望楼地下1階・ダークエルフの王宮1階・七番目のスパインホール。

3箇所ともかつて異界の者が降り立った痕跡のある場所。

ふうはこれらの場所に、少し前から冒険者の間で噂になっている”秘密ダンジョン”を作ろうとしていた。

”婆ぁの婆ぁ”

”わらわはブロヌじゃ♪”
ブロヌの蝿殺しからナパーム弾がマートンを直撃。

バラバラになった体を必死で拾い集めながら、恨めしそうなマートン。
”お前ら、簡単に言いやがるが、そんなもんどうやって作るんだ?!”

”ジェイドのワームバイトに、捕えたモブから、
秘密ダンジョンの通行用ポータルクリスタルが出るようになる。
という能力を加えてあるのじゃ♪
秘密ダンジョンクリアの報酬はたっぷり用意してある。
あとは口コミで、参加者が殺到するじゃろうよ^^b”

秘密ダンジョンはこの世界であってこの世界ではない場所である。

この世界に秘密ダンジョンと呼ばれる場所はたくさんあるが、
ふうが作ろうとしていたそれは、熟練した冒険者でなければ
入ることができぬダンジョンであった。

そこで冒険者は同じ目的のため、同じ手順で同じ種族のモブを倒し、
報酬を手に入れる。

その報酬が、わりのよいものであれば、放っておいても冒険者は集まり、この世界であってこの世界ではない場所が寸分たがわぬ状態で、何度もこの世界と繋がる。

その事実は必ず、
時空の歪みにより地雷のように現れるポータルを呼び寄せる。

しかもそれが、数百年前に死亡したジェイドが関わったダンジョンであれば、それは過去と現在に必ず影響を及ぼす。


普段は事務方として天空邸にいることが多い、
エゥリンを筆頭とする第3部隊が、ジェイドの支援に派遣されていたため、凶暴なモンスが跋扈する、フォーリン望楼地下1階・ダークエルフの王宮1階・七番目のスパインホールで、
彼女は思う存分”ワームバイトでモンスさんを捕まえよう♪”ゲームに興じることが出来た。

やがて、ふうたちが目論んだとおり、それらの場所には冒険者が溢れかえった。

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商人ギルドが何やら画策しているという情報はすぐに
シーフギルドに伝わった。

今のところ、それは成功しておらず、商人ギルドは傭兵を集めていることも。

”高い能力を持つ我々が、道具として使い捨てにされるという理不尽な時代は終焉を迎えた・・・今こそ、正当な評価をつかむ時なり”

商人ギルドが動くのなら、シーフギルドも黙ってみているわけにはいかぬ。
そんな気運がみなぎっていた。


神聖都市と呼ばれるアウグの街中、
しかも高位神官がいる教会相手に派手に動くことは出来ない。

聖職者に対して略奪行為をはたらいたことがわかれば
彼らのバックにいる無数の信者たちの反感を買うことは必須。

そのため、万が一ことが公になった時の用心に
双方のギルドはアリアンで無名の傭兵を雇い、目的をとげようとしていた。

”えらく実入りのいい仕事が見つかったぞ!”

上機嫌の主は、
自分だけでなくミルティクの分の契約を済ませてきてしまっていた。

”仕事の内容は珍獣の捕獲。
報酬は1人200万、成功すれば更に200万だそうだ”

正直なところ、占いの報酬で、いつでもこの宿から出て、
小さな家を借りるくらいの貯金は出来ていた。

が、プライドの高い主に、出来れば花を持たせてやりたかった。

そういう意味ではまさに願っても無い仕事なのだが・・・

”珍獣がいる場所はアウグの教会らしい”

人の近未来が見えるミルティクにも、例外があった。
自分自身と、自分が特別な感情を抱く相手のそれは
見たくとも見る事が出来なかった。

従って、この世で唯一、己が使えるべき主と見込むアウィンの未来も
窺い知る事は叶わない。

だが、今回は近未来が見える能力など必要ない。
アウグの珍獣といえばあの赤い動物。

この仕事、失敗する。

久しぶりに機嫌の良い主にはとても言えず、
ミルティクは微笑みながら心の中で大きく溜息をついた。

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カムロの食物鑑定能力が著しく上がっていることに
最初に気がついたのは、Cymruだった。

ダメルでの事件で数日教会を留守にしたCymruとカムロを待っていたのは、大量の食料。

それでなくとも信心深い人々が多いアウグの街で教会は特別な存在。
二つ名を持つ高位神官が大切に育てている動物は、それだけで有難がられた。

その動物が何しろ大食いだということで
教会には寄付として食べ物を届ける人が後をたたない。

カムロが留守であるから、食べ物は減らない。
貧しい人々恵まれない人々に配っても
配りきれなかった食料が2人を出迎えた。

「まあ・・・(涙目)」

教会の冷蔵庫に収まりきれず、なるべく涼しいところということで
ご聖堂にまで並ぶ食料に(感涙)しているCymruの横をすり抜け
トテトテと歩み寄るカムロ。

喰えるじょ♪(=^‥^=)σ

(..=) (=・・=) (= ¨ )くんくん
(..=) (=・・=) (= ¨ )くんくん

(=^;;^=)σこれはだめだじょ;;

途中味見をしながら、あっという間に選別した。

今までのカムロは、天然素材か否かの判別はしていたが、
少々悪くなっていたものを口にして、おなかを壊すことは
珍しくなかったのに・・・

Cymruから報告を受けたふうがカムロに何が起こったのかを
調べ、わかったのは次のようなことであった。

ダメルでの一件でマートンが命がけで逃がし、
カムロが吸収した「石」は、300年から400年前に、
食肉を販売していた一家が、代々大切に護っていた宝であった。

冷蔵庫などないその時代、
自分たちが扱う食材の鮮度を見抜くことは
彼らにとって死活問題であったのだろう。

「これは推測じゃが・・・大切に護られた「石」や「卵」が
カムロに融合するとき、それを護っていた者の能力も
一緒に吸収されるようじゃ」

それがこんな形で騒ぎを引き起こすことになるなんて・・・(泣)

商人ギルド、シーフギルドからの連日の来襲にCymruはある決心を固めた。

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「ただいま~(*´д`*)」

「おかえり!ちぇる・・・で、何連れて来たわん?(ふさふさ)」

σ(=^‥^=)カムロだじょ♪

自分を指差してそう言うと、その赤い動物は、じっとふもふを見つめる。

(ふさふさふさふさ)
艶やかな毛並みの尻尾が華麗に揺れているのを

じ~~~っ~~~( ̄-  ̄ ) ンー(カムロ珍しく熟考中)

ただのワンコ = ~(= ^・・^)=oお手だじょ♪

凄いワンコ = ~(= ^・・^)=o 握手だじょ♪

(゜ー゜)(。_。)(゜-゜)(。_。)(結論に納得中)

ふもふに近づき

~(= ^・・^)=o 握手だじょ♪

この赤い動物、人を見る目はあるようだ。

握手をしてからふもふの後ろに回り、そっと尻尾を触ってみるカムロ。
それが頬にあたるとその心地よさに満面の笑みを浮かべた。

「よしよし、良い子だわん♪(ふさふさ)」

「で、だ・・・これがやっぱりイスがらみなわけだ(ノ´∀`*)」
ちぇるは腰から下げていたマシュマロを摘み出すと、
1個をカムロに投げてやってから自分も口に運んだ。

「う~~~ん、おいし(*´д`*)」

「この赤いの・・・うんと・・・カムロだっけ?」


σ(=^‥^=)カムロだじょ♪


「カムロは前にふもふの背中で乗り物酔いした神官さんのとこのペットらしいんだけど」


σ(=^‥^=)ペットじゃないじょ、カムロだじょ♪


「はいはいはいはい、ま、なんでもいいや。あの神官さんのとこの居候らしいんだけど」

これは自覚があるらしく、手にしたマシュマロをもぐもぐしているカムロ。

「ここんとこ巷で噂の食品の表示違反や原材料偽装にからんでさ、
狙われてるらしいんだ、この子・゚・(ノД`)・゚・」

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「????(ふさふさふさふさ)」

「ま、これ見てよ」ちぇるは255本にまとめられた花束を取り出した。

「こん中に1本だけ、HPもCPも回復しないただの花が混ざってるわけだ。
花なんて食べまくって使うから1本くらいそんなのが混ざってても私らじゃわからない、でも・・・」
ちぇるはその花束をカムロに投げた。

大きく口を開いてナイスキャッチのカムロ、あっという間に食べつくした
と思ったら、花を1本口にくわえてポーズ。

「カルメンのつもりかわん^^;;;(ふさふさ)」

「ま、一応洗ってから」ちぇるはカムロからその花を受け取るとキレイに洗ってふもふに差し出す。
「食べてみ」

「はいはい^^;・・・ん、回復しないわん?!(ふさふさ)」

「偶然じゃないよ。カムロは天然素材、合成添加物なし栄養があるものしか口にしない。
その手の偽装なんてこの子にかかったらすっきりはっきりお見通しなわけだ(・m・*)」

σ(=^‥^=)ノ エライじょ

「叩けばホコリが出るところが多いらしくてさ、
この子を捕まえてライバル会社の製品を片っ端から食べさせ、
何とか相手を蹴落とそうと考える輩。
身に覚えがありすぎて、この子がいると困る輩が多いらしくてね」

「君も大変なんだわん(しおしお)」

σ(=^‥^=)v 大変だじょ♪
とりあえずリピートしているが、あまりわかっているようには見えない。

「で、神官さんのとこ、防御は完璧なんだけど、攻撃となるとからっきしなんで、この子を守りがてら、そういう奴らが二度とちょっかいださない程度に懲らしめて欲しいってわけだ。
報酬はイスがステンドグラス壊した修理代と相殺。
諸経費、カムロの食費こちらもち。この件で損害が生じても補償なし・゚・(ノД`)・゚・」

「えっ~~~(しおしお)」

「なんでも借金は900万ですって(遠い目)」

「さすがイスだわん^^;;;」

「次にイスが戻ったら、この件については、よ~~~~っく相談するということで、みんな、頼むね(*´д`*)」

「ま、イスより危ないのはまず居ないから、楽勝でしょ(ふさふさ)」

微苦笑しつつ頷くギルメン一同。

「じゃ、お茶の時間にしよー♪わんこがチャイいれるよ~
ミルクにスパイス~♪お砂糖も入れてあま~くね
ぬくぬくほっこりよ~♪(ふさふさ)」

音に聞こえたクルネスの面々、いつもどおりのなごやかなお茶会が始まり、夜は更けていった。

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カムロが移送されたという情報は翌日には双方の陣営にもたらされた。

先に動いたのはシーフギルド。

翌日夜半、音もなく忍び込んできた20名ほどの影、
手早くギルドホール内を探し回る。

「こんばんわん、でも、今夜招待客の予定はないわん♪(ふさふさ)」

ギルド倉庫の横でゴールドに輝く2つの光がしなやかに跳躍し、
1人を博愛固めこと強烈なハグ!

ハグされた相手は"ぎゅむぎうぅぅ~~"という呻き声をあげ、
ミシミシメキメキという鈍い音とともに、白目をむき、その場に倒れた。

「ワンコか・・・」素早く後ろに飛んだ2人がナイフを構える。
「俺たちは回避スキルがマスターでな・・・そんな技にかかるか!」
鋭く言い放ち、ふもふに向かい短剣がとぶ。

ほんの少し体を左に移動し、それを避けると、
ふもふはホールの電気を点けた。

それを合図にエンチャ、ヘイスト、エビ、ブレ、ミラーがかけられた。
すでに臨戦態勢で待ち構えていたメンバーがゆっくりと動きはじめ、
侵入者を値踏みする。

「へぇ~回避スキルがマスターなんだ・・・」ちぇるは揃えていた足を肩幅よりやや広めに構えた。
「氷霊よ」ちぇるの呟き、彼女の手に氷の矢が現れる。
「それなら、これではいかが?ウォーターフォール!!」

敵ではなく天井に向かって放たれたように見えた矢は、次の瞬間、無数の氷矢へと変化し
容赦なく敵に降り注ぐ。
閉鎖された空間でこれだけの数の矢を浴びせられたら・・・
回避スキルなどなんの役にも立たぬ。

被弾し倒れる者。倒れぬまでも凍りつき動けなくなる者たち。

「いくわん♪」艶やかな尻尾が優雅に弧を描き中空を舞う。
1人、また1人確実に敵が倒れてゆく。

「もういっちょ!」一瞬ランサーに変身しミラメラをまわすと
敵陣中央にむかい突進、何とか動ける敵が向かってきたところで
「気分が乗ってきたので特別サービス~(*´д`*)これで暖まるでしょ♪」
今度は火矢が降り注ぐ。

「ちょっ~~~」ギルメンから悲鳴があがる。
「マスター!!!うちのホール、木造だから火気厳禁!!!」

「あれ?!」小首を傾げて可愛く微笑むちぇる。

その隙をついて、
「撤退!」侵入者たちは消えた。

「あっ~~~逃げ足はや!」

「それより消火だわん(しおしお)」

「早く石造りのギルドホールにしたいねぇ~」

「・・・いつのことやら・・・」

「そ、それは私よりイスに言って欲しいな~(*´д`*)」

溜息まじりに消火活動に励む一同であった。

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決行当日、目的の場所が某ギルドホールに変更になったうえ、
そこに着いてみると、どうやら先客がいるらしく、
外で待機になったアウィンたち。

やる気満々で参加した主は仏頂面で身を潜めている。

”先客が歓待されているようですね”
ギルドホールに電気がついたのを見て、
ミルティクは主に”耳”を送る。

”ああ”主の不機嫌そうな応えに微笑むミルティク。

微かだが明らかに人の絶叫とわかる音が響き、
ばらばらと飛び出してきた人影。

”おやおや、もうご退散のようだ”アウィンは嬉しそうに”耳”を送ってきた。

ミルティクは不可視の指輪を取り出し、戦闘に備える。

「わぁーーー」背後で悲鳴が聞こえた。

傭兵部隊と聞こえはよいが、
強盗まがいのこんな仕事を引き受ける連中であるから、
どこかの国の軍人崩れ、元犯罪者、ちんぴらに毛が生えたような輩、
どこの馬の骨ともわからぬ流れ者の寄せ集めにすぎない。

国と国との戦争のような時はそれなりに軍隊らしく整えられるのだが、
この程度の仕事となれば、当日顔を合わせ、
事が始まれば、自己責任で生き残れ程度の集団。

先程手負いで逃げ出してきた傭兵たちの中に
私怨がある奴を見つけたこちらの部隊の1人が
これ幸いと止めを刺した。

倒れた仲間を見て、倒した奴に襲い掛かる者がいた。
そいつが放った短剣は狙った相手を逸れ、近くの者を傷つける。

ただの乱闘が始まった。

アウグの街の警備兵が到着し、騒ぎを治めると
双方のギルドの責任者が呼ばれた。

そもそもこの乱闘の原因となった
赤い動物の件は、双方とも堅く口を閉ざして語らず。

夜間訓練中に、たまたま小競り合いとなったということで
取調べは誤魔化したが、
重軽傷者に死者まで出した乱闘に、傭兵たちが黙っていなかった。

商人ギルドとシーフギルドには、
ギル戦で決着をつけるようにとの命が下った。

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ギルド戦争、通称「ギル戦」

特殊な閉ざされたフィールドの中で、
2つの陣営に分かれ戦闘を繰り広げる。

この戦いでは相手に止めを刺した者にはポイントが与えられ、
30分という制限時間の中でより多くのポイントを得た陣営の勝利となる。

止めを刺されても、そこは模擬戦。
実際には戦闘不能となり地面に倒れているだけである。

過日の乱闘の際、便乗して暴れていた主は、
当然のように参加を申し込む。

30分にも亘る戦闘に耐える体力は持たぬとわかっていても、
根っからのバトル好きの主君がどんな無茶をするかと思うと、
ミルティクも参加せざるをえない。


商人ギルドとシーフギルド、互いに面子もある。

双方で熾烈な傭兵の獲得戦が行われ、
その「ギル戦」は稀にみる大規模なものとなった。

































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